マクローリン展開の気持ち
数学とか
2026.09.28
物理学はどう考えているの?
「1点での挙動が決まれば、宇宙の果てまでの挙動がすべて一意にロックされてしまう」という複素解析の性質(解析接続)を知ると、「現実の世界も、ある1瞬の状態が決まれば、未来永劫のすべてが決定しているのではないか?」というドミノ倒しのような決定論を連想したくなりますよね。
結論から言うと、「マクロな物理法則(古典力学)の数式のうえでは決定論的だが、ミクロの現実(量子力学)や計算の限界(カオス理論)を考慮すると、現実世界は単純な決定論とは言えない」というのが、現代科学の行き着いている視点です。
数学が描いた究極の決定論:『ラプラスの悪魔』
19世紀、解析接続などの数学的ブレイクスルーが起きていた時代、物理学の決定論はピークを迎えていました。フランスの数学者ピエール=シモン・ラプラスは、ニュートンの力学(古典力学)を突き詰めた結果、次のような結論に達しました。
「もし、ある一瞬における宇宙のすべての原子の位置と運動量を知ることができ、それを解析できる知性(のちに『ラプラスの悪魔』と呼ばれる存在)がいるならば、その知性にとっては未来も過去もすべて確定しており、不確実なことなど何一つない」
ラプラス
古典物理学の数式(微分方程式)は、まさに解析接続のように「初期条件(1点の情報)」を与えれば、未来の軌道を1通りにしか出力しません。この意味で、当時の科学者は「世界はある意味で決定論的だ」と信じていました。
現実が突きつけた限界①:『量子力学』の確率論
しかし20世紀に入り、原子や電子といったミクロの世界を扱う量子力学が登場したことで、この古典的な決定論は根本から崩れ去りました。
- 不確定性原理(ハイゼンベルク):
ラプラスの悪魔が未来を予言するためには、ある一瞬の「位置」と「運動量(速度)」を両方同時に完全に知る必要がありました。しかし量子力学は、自然界の根本的な仕組みとして「その両方を同時に正確に測定することは絶対に不可能である」ことを証明してしまったのです。
- 確率は本質的である:
ミクロの粒子が「次にどこに現れるか」は、数式を使っても確率(%)でしか予測できません。アインシュタインはこれに反発して「神はサイコロを振らない」と言いましたが、その後の実験により、自然は本当に「サイコロを振っている(本質的に確率論的である)」ことが分かっています。
現実が突きつけた限界②:『カオス理論』と予測の不可能
「ミクロの世界が確率的でも、私たちが生きるマクロの世界(人間、地球、宇宙)は決定論的に動いているのでは?」という疑問も湧きます。
確かにマクロの物理法則は決定論的な数式で書けますが、ここにカオス理論という罠があります。
カオス(混沌)的なシステム(例えば天気の変化など)では、「初期値のほんのわずかな違い(バタフライ効果)」が、将来的に予測不可能なほど巨大な違いを生み出します。
ラプラスの悪魔が未来を完璧に当てるには、「完全に正確なデータ(小数点以下、無限桁)」が必要です。しかし、現実の観測や計算には必ずどこかで限界(四捨五入など)が生じるため、「数式自体は決定論的であっても、人間が未来を復元することは原理的に不可能」という壁にぶつかります。
現実は、「膨大な変数が複雑に絡み合い、微小な動きが多体問題的に増幅される動的な関数(システム)」です。これに対して、私たちが高校までに習うような「入力すればパッと綺麗な答えが返ってくる」タイプの「静的な数学(解析的なアプローチ)」だけでは、現実を到底捕捉することはできません。
「多体問題的」というのは、数学史における最大の急所です。
ニュートン力学の数式は完璧に見えますが、実は「3つ以上の物体が互いに重力で引き合うだけで、その軌道を数式(静的な関数)で表すことは絶対にできない」ということが、19世紀末にアンリ・ポアンカレによって証明されました(三体問題・多体問題)。
星が3つあるだけで数式が破綻するのですから、「無数の原子や人間、気流が絡み合う現実世界」を1つの静的な数式で表現することなど、原理的に不可能なのです。
現代の最先端物理学の到達点。
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- 軌道ではなく「空間の形」を見る:
個々の変数の動きを追うのではなく、すべての変数を含んだ空間(相空間)の中に、システムが最終的に吸い込まれていく「渦(アトラクター)」のような構造がないかを探します。
- カオスの中に潜む秩序:
天気や景気のように、微小な動きが増幅されて予測不能になる「カオス」であっても、その動的な変化のパターン(フラクタル構造など)を捉えることで、「何が起こるかは分からないが、全体としてどういう振る舞いをするか」を数学的に記述できるようになりました。
現在の科学は「曇りない1点の解(確定的な未来)」を追うのを諦め、ミクロの複雑な挙動を巨大な「行列(線形代数)」の中に閉じ込め、その行列が持つ構造的な性質から「全体の方向性や確率(確率ベクトル)」を予測する方向へ完全にシフトしています。
大規模言語モデルの知性がヒトに見える理由なんだと思います。ヒトも入力ベクトルを脳内の行列に通してせ線型変換して、出力する。だから直感的におおよその論理の方向だけ理解できる。
地球上の個々人の動きから経済の流れを予測するのは困難ですが、それらが合成された経済や歴史のベクトルは何となく知覚できる。みたいな。神様がいるような錯覚ってこれだと思います。
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