ロマチェンコの戦い方の全体像

戦略選手分析

最近角海老ジムの高根選手を指導する機会に恵まれました。
連敗中ですが根性のある選手なので東京にいる間に少しでも力になってあげたいと思います。

彼はいろいろな選手を参考しています。
オリジナルになる前の成長段階です。
参考にしている選手を聞いてみるとなかなか難しい組み合わせなんですよね。
戦略の全体像が全く違う。

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一貫した戦術により構築される戦略

ここでの戦略と戦術を簡単に説明します。
戦略はやや抽象的な、その選手が戦いに勝つための計画です。
例えば「パワーを生かす」「スピードを使う」「スタミナを使う」「ディフェンスとスピードで判定勝ち」みたいなもの。
戦術は局所的かつ具体的な戦い方です。
「こんな風に左フックを使う」「このパンチにカウンターを合わせる」など。

戦略と戦術に矛盾があると全体としての力を弱めます。
フットワークを活かしたいのにコンビネーションばかり打っている(適合する場合もある)などがそう。
メイウェザーはジャブ、単発のカウンターばかり。
フットワークを担保するためです。
コンビネーションを多用していたら全勝を維持できなかったはずです。

トップファイターは戦略と戦術を適合させます。
無駄がないんです。

別々の戦略をとっている選手の戦術だけを組み合わせようとすると、他の戦術と喧嘩して戦術本来の力を弱めてしまうんです。

以下の記事で詳しく話しています。

何をしている?何をしていない?

ロマチェンコ選手が何をしていて、逆に何をしていないのかを考えていきます。

まずは何をしているのか。

何をしている

まずはフェイント。
ロマチェンコ選手は基本的には相手のパンチが届かない距離から常に身体のポジションを変えて相手に揺さぶりをかけています。
簡単に画像で確認していきます。

これはロマチェンコ選手のニュートラルなポジションです。

このポジションから前後左右に揺さぶりをかけていきます。

急ぎすぎず丁寧に。
無駄のない速さで淀みなく動き続けます。
「ガッ」と入った方がスピード感を出て、速く動けている気がしますが、「スッ」と入るスピードが本当の速さです。

いきなりスピードを上げると反応されます。

スッと動く理由

相手の右を警戒しながら前傾姿勢。
これはロマチェンコ選手の特徴的な動きの一種ですよね。

ジャブのフェイント。
ロマチェンコ選手はダブルジャブや左のダブルも多用します。

フェイントなので当てることはありません。

この後結局ロマチェンコ選手は攻撃せず仕切り直しました。
以下もう一つ特徴的な動きをていきます。

ジャブフェイント。

フェイントからサイドへ移動。
相手に読まれて逃げられました。

何故こんなことをしているのかは以下で説明していきます。

一度の攻撃でこれだけ手間をかけているんです。
フェイントのやり方もアルバレス選手と違いますね。
「大きく騙してズドン」ではなく、「コツコツ嘘を積み重ねて」います。

一発で決められるパワーのあるアルバレス選手にとって「コツコツ嘘を積み重ねる」のは非効率だからです。
一度騙せればそれで沈められるからです。

話をロマチェンコ選手に戻します。
細かい嘘を積み重ねた後は何をするのか見ていきます。

フェイントをかけて揺さぶりながら相手にプレッシャーをかけます。
すると相手は慌てて反撃しパンチで突き放そうとしてきます。
ここをロマチェンコ選手は狙っています。

相手のジャブの戻りに合わせてカウンター。
このカウンターも強く当てません。

目的は相手の動きを止めることです。
パンチをブロックしたり、顔面で受けたりするとこの画像のようにバランスを崩します。
バランスが崩れると人間は防衛本能が働いてしまうので、身体が硬直します。

バランスを崩して身体が硬直するとロマチェンコ選手の次の動きに対応できなくなります。
ロマチェンコ選手が狙っているのはこの瞬間なんです。

相手の死角へ移動します。
「ロマステップ」です。

別の場面を見てみ行きます。

ロマチェンコ選手はジャブ。
ヒットして相手は身体が硬直しました。

すかさずロマステップ。

相手の死角、ここで強いフックを持ってきます。

ロマチェンコ選手が何をしているかというと駆け引きです。
「後出しじゃんけん」をするために大きな労力を使っているんです。
相手が何かを出すまで我慢。相手の身体を硬直させて自由を奪うまで我慢をしているんです。

何をしていないのか

じゃあ何をしないのか。
それは強打です。
「正確には相手の動きを止め、安全な位置取りをするまでの強打」をしていません。
強い動きをするためには時間が必要なんです。
高く飛ぼうとするとしゃがみます。
速く投げようとすると振りかぶります。
大きな力を発揮するには時間がかかるんです。

ロマチェンコ選手もこのルールには逆らえません。
後出しじゃんけんで勝ち続けるためには動作の始動時間は極力短くしたい。
相手を混乱に陥れるために色んな動作で攪乱したい。

そのためには強打を捨てる必要があります。

ロマステップは強打でも実現できる

じゃあ強打とロマステップは組み合わせられないかというとそうではありません。
ロマチェンコ選手は何をしたいのかといえば、それは相手の身体を硬直させることです。
強打でもいいんです。
相手身体のどこかにパンチを当てれば相手は驚いて動きが止まります。
その瞬間なら相手の死角に回り込むことができます。

具体的な選手だとマイク・タイソンが思い浮かびます。
ただアルバレス選手がいちいち相手の死角を奪わないように、タイソンにもあまり相手の死角を奪う利点がありません。
相手を正面に捉えて最大火力で打ちのめしてしまったほうがいいからです。
相手の死角で攻撃するのは安全ですが、正面の急所が隠れてしまい攻撃力が低下します。

ロマステップは強打と組み合わせることができるがあまり利点がない。
ということが言えると思います。
現に強打の選手はあまり横へ動きません。
これは自分の長所を生かしてダメージを奪う方が効率がいいからだと僕は考えています。

余談

ロマチェンコ選手が負けた2敗を見てみるとロマチェンコ選手の戦略が機能しなかったと言えると思います。
ロマチェンコ選手との駆け引きをせず、パンチを受けようがお構いなしで頭から突っ込んだサリド選手。
後ろ足に体重を残したままジャブを出して、ロマチェンコ選手のフェイントに付き合わなかったロペス選手。
両選手ともロマチェンコ選手のに後出しじゃんけんをさせませんでした。

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Die Hard – ダイ・ハード
この記事を書いた人

第41第東洋太平洋(OPBF)ウェルター級王者
元WBC世界同級34位
元WBO-AP同級3位
元角海老宝石ジム所属

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