ロマチェンコを封じたセリモフの『チェックフック』

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396-1

インターネットで調べてみるとロマチェンコ選手のアマキャリアは396勝1敗(真偽不明)というトンデモない記事が沢山出てきます。
これらの記事を信用することにして、唯一負けたと題された試合を見てみました。

相手はアルバート・セリモフ(Albert Selimov)選手。
2007年シカゴで行われた試合です。
YouTubeで「Vasyl Lomachenko vs Albert Selimov」で検索すると出てきます。

セリモフ選手はサウスポーで長身、足を使うカウンターパンチャーです。

結論から言ってしまうとセリモフ選手、というかセリモフ選手のロシアンスタイルはとても奥深いというか、僕の研究の対象としてはメキシカンスタイルと双璧をなすボクシングの戦略です。
今回はロシアンスタイルの2軸ボクシングについて簡単にお話します。
と言っても『2軸』と言うのは僕が陸上から拝借して勝手にそう呼んでいるだけです。

セリモフの2軸ボクシング

いつのことですが、ロマチェンコ選手は速いリズムで頭を振りながら一気に飛び込んで距離を詰めます。
至近距離から回転力のある得意のコンビネーションを狙う戦略です。

これをセリモフ選手がどう封じたのかを考察していきたいと思います。

2軸によるチェックフック

セリモフ選手はバランスがよく、打ちながら動けます。
これはセリモフ選手が優れたバランス感覚を持っている(訓練で身につけられる)という面もあると思いますが、後述する軸を入れ替えながらパンチを放つ『2軸ボクシング』による利点を活かしているからだと僕は考えています。
特にチェックフックが特徴的でした。

チェックフックはボクシングに用いられる技術で、攻撃的なファイターを相手に使用されます。
攻撃的ファイターが突進してきた瞬間にフックを当てて、また同時に足をピボットさせます。

Wikipedia

セリモフ選手は1ラウンドから何度も何度もロマチェンコ選手の出鼻にはチェックフックを当てて体の位置を入れ替えます。
このチェックフックはかなり複雑な体の動作で日本式の教え方とは全く違います。
僕の観察から得られた統計ではロシアやキューバ式の打ち方です。
この両国は旧共産圏ということもあるので、技術的な源流は同じというのが一つの理由だと結論しています。

セリモフ選手のパンチの中でこのチェックフックが最も大きな効果を上げていました。
脊椎を軸とした回転をを教える『1軸』の教え方が主である日本のボクシングでは2軸を活かした打法はほとんど聞いたことがないと思いますが、参考までに聞いてください。

前提となる知識というか当たり前のことではありますが、股関節は二つあります。
解剖学的には『球関節』と呼ばれる関節の形状をしていて、『3D(立体的)』に動きます。

二つの股関節を軸したボクシングを二軸と僕は定義しています。

股関節は立体的に動く関節なので2軸に限らずアイディア次第では3軸だって実現できます。

それではセリモフ選手のチェックフックの解説します。

この場面はロマチェンコ選手の攻撃に備える待機姿勢です。

この時は右足に体重を乗せていますね。

※赤セリモフ 青ロマチェンコ

ロマチェンコ選手が踏み込んでいった瞬間です。
この瞬間はセリモフ選手は左足に体重を乗せた左軸でパンチを放っています。

この打法の利点は距離を作れることです。
踏み込んできたロマチェンコ選手に対して軸を移動させることで、その分だけ距離を稼げます。
ボクシングは拳一つ、ロマチェンコ選手やセリモフ選手のレベルになれば数cmが圧倒的な差を生みます。
上の画像を見比べるとその差がいかに大きいかが分かると思います。
前腕一つ分くらいの距離を稼げています。

「偶然だろ?」と思った方の為に”1”ラウンドのセリモフ選手のチェックフックをまとめました。
当然全てのフックで軸の入れ替えをしているわけではありませんが、偶然ではないことは一目瞭然です。

中には左足で体重を完全に支持して右足が浮いてる瞬間もありますよね。
左足支持の間に右足を後方へ送り込んでピボットできるので、ポジションを変える時間的なアドバンテージもあります。
超高度な体の使い方ですが、とても理にかなった打法だと言えます。

2軸による左カウンター

セリモフ選手の軸の入れ替えの効果はチェックフックに留まりません。

ロマチェンコ選手が踏み込んできたのと同時に軸足を右から左へと入れ替えて空間を作り出します。

と同時に右フック。

右フックによりロマチェンコ選手は本能的な力みで一瞬動きが止まります。
その瞬間に今度は左足から右足へ軸を入れ替えます。

右フックとは逆のことが起こり、左ストレートの射程が伸びます。

上の画像と比較してもらうと分かりやすいと思いますが、右足から左足へ軸が移動しています。

既述のセリモフ選手がバランス良く、打ちながら動ける一つの要因としては左右の軸の移動の距離をディフェンスやオフェンスに上手く利用しているため、上半身が前傾したり後傾したりしない。
よって安定したバランスで強いパンチが打てるということが考えられます。

拳を長い距離走らせることができるのでこれを上手く利用すればパンチの衝撃も上がるはずです。

2軸はオフェンスだけじゃない

僕の考える2軸による利点はオフェンスにとどまりません。
ディフェンスにも応用できます。
今回の記事はそれが主ではないので、またの機会にお話しますがこの軸の移動によるディフェンスはカネロ・アルバレス選手やローマン・ゴンザレス選手がとても参考になります。

長濱は多軸を目指す

股関節の軸は2つではありません。
さらにあります。

3Dに動く股関節は様々な動きを実現できるはずです。

今回例に挙げたセリモフ選手はどちらかと言えば2軸的で、直線的なパンチを多用しているように僕の目には映りました。
股関節の3D回転を上手く利用してるの選手の例として僕の頭にパッと思いついたのは既述の”ロマゴン”です。
前へ体を倒しながらのストレートは顔面の軌道からボディーの軌道へ変化させられます。
ボディーブローを打つ構えから顔面への軌道へ切り替えたりもします。

僕は身体の強く大きな動きを実現できる股関節のフル稼働をずっと考えています。
1軸よりは2軸が圧倒的に良いとは感じますが、2軸より3軸がいいとはまだ断言でききません。
その為の圧倒的な理由を今考えている最中です。
頻繁に「やっぱり実用的なのは2軸かなー」「でも理想は3軸だよなー」と考えが行ったり来たりしてはいますが、このブログで少しづつ僕の考えを発展させていきたいと思っています。

そして戦略においても僕がスキルとスキルセットという発想をお伝えしていますが、さらにそれを展開し発展させた『蟻地獄戦略』と名付けた戦略があり、今後の僕のボクシング人生において発展させていきたいと思います。

他にもメンタルを強化するための理論も少しづつ発展させて、ここで共有できればと思っています。
どうか暖かい目でお守りください。
そして、一緒に上記の理論を発展させる手助けをしていただければと思います。
気軽にコメントであなたの考えをお聞かせください。

まとめ

ロシアンスタイルはとても参考になる合理的な理論。
セリモフ選手の2軸によるフックと左カウンターは今この瞬間から実践したくなる技術。

明日から猛練習だ。

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Die Hard – ダイ・ハード
この記事を書いた人

第41第東洋太平洋(OPBF)ウェルター級王者
元WBC世界同級34位
元WBO-AP同級3位
元角海老宝石ジム所属

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