時間があるので若い頃読んだ小説を再読。
読む時期、心境によって違った印象にしてくれるのが僕の定義での面白く味わい深い芸術作品です。ジブリ作品の印象が子供の頃と変わっているように。味わい深い作品は本来のストーリーの裏に暗喩的に本題が隠されています。
知性体とはなんぞや
ソラリスとは
「ソラリス」は人類と地球外知的生命体との接触(コンタクト)を描いた作品で、映画「未知との遭遇」「コンタクト」などあらゆるコンタクト系と分類される作品に影響を与えています。
ソラリスは思考する惑星。その知性の実体はゼリー状の液体であり、惑星を覆い尽くす海として描かれています。
ソラリスを描いた作家スタニスワフ・レムは人の持つ知的生命体のイメージを拡張し、新たな生命の形を定義しました。
人間を抽象的に見れば、それは遺伝子の相互作用ネットワークです。遺伝子はそれが合成するタンパク質を言語として、体内の離れた遺伝子とコミュニケーションを取っています。遺伝子それ自体には意思はありません。入力された情報を決められた規則通りに変換し出力しているだけの機械(関数)です。しかし意思を持たない単純な関数の寄せ集めの総体であるはずの人は意思を持ちます。
単純な動作だけを定義された遺伝子の相互作用ネットワークが総体としての意思を持つように、ソラリスの海も複雑に階層化された相互作用の結果として、総体としての意思を持っているわけです。
ところで、人のニューロンのネットワークと宇宙の構造が似ているのは、それが情報(力学的な力)の伝達を安定して行う合理的な構造だからです(長濱説)。
インターネット上の人類の相互作用ネットワークも宇宙と似たような構造をしていて、文字という記号を媒介して意味を伝達します。アリのネットワークもそう。山に張り巡らされた木の根のネットワークもそう見えなくもない。
宇宙からインターネット、都市の交通網に、山に張り巡らされた木の根、ニューロンの構造などなど。
世界の構造が再帰的(フラクタル)な入れ子構造になっているのって面白いですよね。どれだけ拡大、縮小しても同じ景色なんてす。
きっと抽象化すると全て似たような力学(比喩的な)が働いていて、だからこそ物事の本質は似ているのだと思います。
フラクタル構造の一部として人の知性を考えるのなら、レフの描いたソラリスのように、もっと広い意味での知性が存在していてもおかしくないと僕は思うのです。
人類の集合知
話は飛んで僕好きな攻殻機動隊のアニメについて。ファーストシーズンでは「笑い男」という事件の解決がメインテーマです。
それはある事件をきっかけに犯罪が連鎖し、後に「笑い男」と呼ばれる現象を引き起こします。笑い男には実体はありません。模倣犯に次ぐ模倣犯の発生とメディアによる勝手な憶測、それを受取る人々の心理が複雑にからみ合い、「笑い男」と呼ばれる思想を形成します。実体を持たない、出どころ不明の思想は人の心を操るまでに成長します。
メディアが発達した現代社会では、論理的に破綻した虚構の合意形成があっという間に行われてしまいます。
SNS上では、誰のことを指しているのか分からない「普通」や、誰の為なのかも分からない「正義」と言う名の神があっという間にでっち上げられ、その神の名の元に独善的な私刑が行われています。
誰もが損をする自縄自縛の思想がソラリスの海のように、まるで生きているようにも見えてきます。
思想はウイルスのようなもの。複製の過程でエラーを起こし凶暴化します。
攻殻機動隊の生命の定義を拡張せよって話は若い頃に出会えて良かった。
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