ファイトマネーの現金制とチケット制の話

よもやま話

3150ファイトの亀田会長がファイトマネーを現金で渡すということで話題になっていますね。
このことについて僕なりの考えを共有したいと思います。

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選手も一丸となって興行を作る日本式

日本のボクシング業界は選手への報酬としてチケットを渡しています。
知らないと驚きますよね。僕もこの業界へ入った時は驚きました。

ちなみに東京で知り合った役者やバンド、芸人をやっている友達もこれが当たり前だと言っていました。
基本的に日本のエンタメはこうなんです。人の文明における文化はその文明の精神的な豊かさを保つ上では非常に重要だと僕は考えていますが、残念ながら日本は文化活動に金を払うって文化が少しづつ廃れてしまっていると思います。

選手はイベントの営業マン

試合の報酬がチケットとはどういうことなのかというと。

例えば慣例だと4回戦の選手はファイトマネーの倍額のチケットを興行主から支給されます。
それをファイトマネーと呼んでいいのか、疑問が残りますが、慣例では「チケット = ファイトマネー」です。良心的かつ資金のあるジムでないと(つまり極一握りのジム以外では)現金は一切支給されません。
選手はその支給されたチケットを売って自らの報酬を得ます。
要するに選手はイベントの営業マンとしての役割を果たさなければならないんです。

実はそれだけではなく、そしてここからが一般的な感覚としてはちょっとヤバイと感じる部分です。
選手は試合を組んだプロモーター兼マネージャーにマネジメント料を収める必要があるんです。
規定では33%となっていますが、なんやかんやでそれ以上取られると思った方がいいです。
僕の知っている限りだと最終的に10%、50%、66%となっていたりとジムによってまちまちです。
良心的なジムはマネジメント料を規定より安く請求してくれます。多くはありませんが。

これはチケットという商品を33%で卸して選手が小売りしている、もっと率直に言えば”金を払って試合に出ている”のと論理的には同義ですよね。
プロモーターを含め、業界が一生懸命ボクサーを宣伝してくれるのなら売りやすいですが、大半はチケットだけ渡して「じゃ、がんばって」って感じです。
ポスターもしょっぼいデザインで、宣材写真はスマホで撮ったダッサイやつ。
「ふざけんなボケ」って言葉をなんとか飲み込みました。

当事者としての経験から言わせてもらうと、自分のチケットを買ってくださいって難しいですよ。
ポスターもチケットも高校の文化祭以下のくそダサいものが普通にありますから。
僕は苦しみました。苦しんだ挙句にSNSとYoutubeを頑張りました。

地元で試合をするなら友達や親類に売ることができますが、僕は上京してボクシングを始めたので知り合いなんてのはいないに等しく、本当に本当に苦労しました。
当時の僕はSNSの威力を知らなかったもんで、とりあえず買ってくれそうな会社に電話営業やってみたり、ポスターの掲示を協力してくれる店舗を開拓していったんですけど、はっきりと効果なかったです。売れませんねそんなんじゃ。
ふと客見つけてそこから芋づる式に引っ張るしかありません。

もし地方出身の方で東京でチケット販売に困っている方は近くの県人会などに連絡してみてください。
各都道府県版があると思います。
地方から東京へ出て行って会社を経営している方も多く、同郷のよしみで大量に買ってくれますし、運が良ければスポンサーにもなって応援もしてくれます。
僕はそうやってファンを増やしていきました。

普通に会社員やってた頃より仕事の難易度は高いですが、最終的にはゲームだと思って楽しみながらできるようになっていました。
でも最初は本当に嫌で嫌で堪らなかったし、大変でした。

だからこそ、チケットの販売で苦しんでいる選手の気持ちが分かります。
同じ気持ちの若い選手達を救ってあげたいって気持ちがあります。

それでも一度、2年目に知り合いの伝手を頼って何とか100万円ほどチケット売ったんですよ。
結局はマネジメント料として半分持っていかれました。
その瞬間に「アホクサ」と思ってチケット売る努力を辞めました。
販売の労力に報酬が見合ってません。会社員で営業マンをしていた頃より大変で、なおかつ稼げないなんてバカバカしくてやってられません。
そもそもチケットの営業なんてしていたら、練習してバイトしててる選手は心身共に疲労困憊になって試合どころじゃなくなります。
本末転倒なんです。

それに現実的に、ある程度、腹をくくってやれる選手がどれだけいるか。
普通はできないと思います。できるのは育ちとか環境に恵まれた一部の選手だけです。
僕は環境とか育ちとかを含めた色んな条件が重なったから、行動に起こせました。それでも嫌々でしたけど。
大半はチケットの販売に苦しみます。
マネジメント料を払って赤字って選手多いんじゃないですかね。

苦労したからなのか、僕はチケットの営業力を自慢する選手が嫌いです。というか、営業マンが嫌いなのかもしれません。

時間が許す限りボクシングを研究したかった僕はこの仕組みが嫌で嫌で仕方ありませんでした。

日本式の良い点

僕は現役の頃この仕組みが憎くて仕方がなかったのですが、冷静に考えるとこの仕組みは良い点もあります。
そこを無視して現金制を議論することはできないと思います。

上記のTwitterのように日本式は競技力が低くても試合に出れます。
厳しい言い方をすれば、日本の4回戦は一部を除いて素人の殴り合いレベルです。
率直に言って、「プロ」と呼んでいいのかも疑問が残る程の競技力だと僕は思っています。
プロテストでスパーリングをしたらプロを名乗れますから。

そんなレベルでも試合ができるのは選手が営業マンを兼ねる日本式だからこそでしょう。
素人の殴り合いに金を払いたいファンはごく少数ですから。

現状は選手の競技力を経済的な価値に変換する市場原理は働いていません。身内を招いて行うピアノの発表会、学芸会の延長線上にあります。
学芸会で報酬は得られませんよね。
そのレベルで報酬を生み出すには選手が営業マンをやるしかないんです。

もし現金制によって市場原理を働かせた場合、競技力か知名度のある選手以外は買いたたかれていきますので余った選手の役割は一つ、かませ犬でしょう。
海外だとかませ犬専門のプロモーターがいるようですよ。

現金制に移行なんて今の日本のボクシングの競技力では不可能だと思います。
野球、サッカー、バスケ、eスポーツ、Youtuber。
タダで消費できるエンタメも沢山あります。
あらゆるエンタメが充実した時代に、素人レベルの4回戦に金を払う広告主、ファンがいるとは思えません。
良くて地下格闘技の雰囲気でチンピラに憧れる層に金を出させる程度。

親として言わせてもらうと、そんな競技は子供にさせたくありませんので、競技人口の減少に歯止めがかからず、長期的に見て衰退していくでしょう。

現状は現金制とチケット制の言葉だけが独り歩きしているように僕の目には映ります。
それぞれの欠点と利点について議論せず、現金制のロマンにだけを目を奪われて、見切り発車の失敗を重ねてしまえば、「ボクシングに金を出しても失敗する、MMAの方がいいや」と風評が立ちかねません。

長期的にはアマからプロへの道の整備、競技力の全体的な底上げという点は無視できないと僕は思います。アマ経験せずにトップアマと試合させられたらぶっ壊されます。

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Die Hard – ダイ・ハード
この記事を書いた人

第41第東洋太平洋(OPBF)ウェルター級王者
元WBC世界同級34位
元WBO-AP同級3位
元角海老宝石ジム所属

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