股関節軸と脊椎軸

運動理論
運動理論

以下の記事で少しだけ触れました「股関節軸」についてです。
日本のボクシングジムで教えられるのは身体の中心、脊椎の位置に軸を置く「脊椎軸」が多いと思います。
間違ってはいません。
静止している時に脊椎に軸を置けくことでバランスが保てます。
日常生活において最も多用される軸なので人間が無意識下で最も意識しやすい軸だと思います。

しかし、いざ動きだす時は「脊椎軸」では伸びとキレのある強いをパンチを打てません。
ディフェンスもそうです。
強く速く大きく、さらに柔軟な動きをするためにも股関節軸の感覚が必要です。
今回は二つの軸についてお話します。

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脊椎軸

身体の中心に軸を置くというのは武道でもよく言われますよね。
僕が小学生の頃通っていた空手の道場では「身体の真ん中が軸である」とよく言われていました。

先ほども述べましたがこれは間違った感覚ではないないと思います。
人間の身体は基本的には左右対象なので、重心の位置も基本的には身体の中心にあるはずです。
(内臓の位置が違うので厳密には違います)
よく言われるのが骨盤の辺りが重心であるというものです。

余談:身体重心

少し脱線しますが、身体重心について補足します。
重心という言葉から「物体の中心」というイメージを持ってしまいがちですが、重心は質量の中心なので、姿勢によって身体の重心の位置は変化します。
ピンとこないかもしれませんが重心が身体の外にでることもあります
お辞儀をするように前に屈むと重心は身体の外へ出ます。

赤い丸が重心です。

引用:https://images.app.goo.gl/8JnZEWy5hmN8LKbk8

重力は「重心を」地球の中心へ引き付けるように働きますので、重心が身体の外に出ると「てこ」により股関節を軸に身体を下へ押そうとする力が大きくなります。
このように重心の位置はそれを支えるのに必要な筋力の大きさ、すなわち脱力にも関わってくるため身体重心をどこに置くかはとても重要なります。

以下は簡単に身体に働く重力のてこについて。

デッドリフトの模式図です。
左側の体から重心が遠い方が背中と臀部で大きな力を発揮する必要があるのは直感的にご理解いただけると思います。

こんな風に重心が遠くなる(股関節から離れる)と無駄に筋力を発揮しなきゃなりません。

身体重心が身体の外へ出ると重力は身体を下向きに回転させようとします。

回転する物体は「てこ」が働くので、力点(重心)から支点(股関節)が遠ざかるとそれだけ大きな力で支点を回転させようとします。
それ分だけ無駄に背や腿などを緊張させてテコを回さないように抵抗する必要が出てきます。
発揮できる筋力が姿勢の保持に回されます。

トルクレンチも柄(力点)が伸びれば伸びるほど小さな力で軸を回転させられます。
これと同じように重心が外へ出れば出るほど重力が働く力点が遠ざかり上半身の回転力が増すので、全身を緊張させて回転力を抑える必要が出てきます。

よく「前傾しろ!」とか「前重心」を指導している場面を見ますが、ただ前傾すればいいわけでもなく、前重心が常に正しいわけでもないんです。
前傾姿勢(パワーポジション)も正しく作れないとバランスが悪く消耗するだけ、発揮できる身体の力を弱めるだけです。
前傾姿勢を勘違いしている指導者、もしくは正しい前傾ができない選手は多いと感じています。

前傾姿勢の好例としてデービス選手を挙げます。
パンチを見ずとも、この姿勢を見ただけでデービス選手ヤバさが伝わってきます。

股関節は屈曲して上半身は前傾していますが、骨盤が引かれて位置が後ろにあるので身体重心は恐らく身体の中心に近い位置にあると思います。
また骨盤前傾により脊椎が湾曲するので、テコの腕が短くなり、前傾しているんですがテコによる回転力を抑えられます。

このように身体の真ん中に重心があると、てこが働かないのでバランスが安定します。
骨格で立てます。
骨格で立つと臀部と裏腿が活性化されます。

デービス選手は前傾姿勢(パワーポジション)ですが、前重心ではないんです。
バランスの取れた重心の位置、且つ強い力を発揮でる姿勢であることがこの姿勢だけで分かります。

股関節軸

脊椎に軸を置くのは人間としてとても普通の感覚だと思います。
そこに軸を置くことで日常生活においては楽ですし、安全です。

ただしパンチを打つ時や投げる、跳ぶ、走る時は軸は股関節にあるべきです。

股関節を軸にしろと言われると分かったような分からないような感じがすると思います。

文字にすると簡単なんです。
左図のように左股関節軸と脊椎軸では破線のモーメントアーム(てこの腕)の長さが違います。

脊椎軸より左股関節を軸とした方が大きく骨盤を回転させられるということです。

骨盤の移動距離が大きい分、末端の肩と腕には大きな力が加えられます。

脊椎軸と股関節軸で回転させた違いを模式図にしました。
回転を上から見ています。
オレンジの丸が軸、矢印が回転力です。

脊椎軸で骨盤を回転させた場合、脊椎を軸に骨盤の右側と左側が反時計回りに回転します。
回転力が分散します。

左股関節軸なら、右脚から受けた地面反力を余すことなく前への回転力へ変換できます。

この推進力の違いが脊椎軸と股関節軸で運動する時の最大の違いです。

感覚へ落とし込む

僕が「股関節に乗る」とか「骨格で立つ」表現していて、「この感覚が一番分からない」とよく質問されてしまうことなんですが、簡単に説明します。

言葉による説明が難しいのですが、踵側に荷重すると(普通に立つ)脛骨と大腿骨がつっかえ棒のようになって骨盤を支えてくれるので、力が抜ける感覚が起こります。
膝を曲げてもある程度股関節に乗れますが、ある角度以上になると前腿の筋力発揮が主になります。
股関節に乗れると自然と股関節軸で動くことができます

股関節に乗りパンチを打つと、自然と股関節軸で骨盤が回転します。
また同時に骨盤の回転により軸脚の大殿筋が伸張され伸張反射により骨盤の回転が制止させられ、「ブレーキ効果」を起こせます。
つまり骨盤の回転を止めようと意識しなくても止めることができます。

大殿筋を簡単に見てみます。

大殿筋は斜め横向きに筋繊維が走っているので、骨盤が回転すると伸張されます。
パンチを打って骨盤が回転すると、お尻がピリピリと引き伸ばされる感覚がありますが、これは大殿筋が引っ張られて伸張反射が起こっている感覚だと思います。

伸張反射によって骨盤の回転が制止されます。
股関節軸でパンチを打つと「ブレーキ効果」が意図せず起こされるってことですね。

ブレーキ効果により腕が加速して振り出されます。

まとめ

脊椎軸は自然な軸ですが、運動時には向きません。
運動時は股関節軸です。

股関節を軸にしてパンチを打つと骨盤の回転力が無駄なくパンチに利用でき、ブレーキ効果が不随意により起こされるので強く伸びのあるパンチが打てます。
また不随意による伸張反射は緊張が持続しないので力みを防ぐ効果もあります。

股関節軸はオフェンスだけでなく、ディフェンスにおいても大切です。
これはまた別の機会に説明しようと思います。
カネロ・アルバレス選手とローマン・ゴンザレス選手、ガーボンタ・デービス選手が股関節軸のディフェンスが上手いですね。
要するに股関節を使ったディフェンスが上手いってことです。

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Die Hard – ダイ・ハード
この記事を書いた人

第41第東洋太平洋(OPBF)ウェルター級王者
元WBC世界同級34位
元WBO-AP同級3位
元角海老宝石ジム所属

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