ボクシングとは切っても切り離せない持久力。
8回戦以上からはただ押せばいいでは上へは行けません。
戦略、駆け引きが必要不可欠になってきます。
10回戦以上は地獄の苦しみに耐え、心を支えるためのメンタルの技術が必要になります。
今回は超えちゃいけない持久力のラインについて。
スパーリングや走り込みをしたことがある方は感じたことがあると思います。
それを超えた瞬間に疲労感が激増して、パワーとスピード、集中力がガタ落ちするライン。
一緒に走る選手には共通した認識があります。
トレーニングの一環として超えてはいけないラインを超えるのは望むところですが、試合中は絶対にそのラインを超えてはいけません。
細心の注意を払ってそのラインを見極めます。
エネルギー供給は2種類
簡単に何故そのような感覚を僕達プロが持っているのかの理由をお話します。
人間が運動を行うエネルギーの供給には大まかに言うと2種類の供給系があります。
一つは無酸素エネルギー系と一つは有酸素エネルギー系です。
無酸素エネルギーと有酸素エネルギーではエネルギーの生産速度に差があり、人間は状況に応じてそれらを使い分けています。
この二つの供給系の違いが超えちゃいけないラインの正体です。
無酸素系エネルギー
有酸素系より供給は迅速ですが、すぐに枯渇してしまうエネルギーです。
激しい運動、爆発的な運動で利用されます。
例えば全力疾走、全力のバッグラッシュのような10秒程度しか持続できないような運動です。
高い負荷がかかると1秒程度でこの供給系が刺激され一気に体内に貯蔵されているエネルギーの利用が開始されます。
急激な運動で、エネルギー供給に時間のかかる有酸素系エネルギーでは賄いきれない場合に優先的に働いて、全身の骨格筋や内臓へ一気にエネルギーを供給します。
有酸素系エネルギー
日常生活や軽めの運動で利用されるエネルギー供給系です。
歩いたりとか軽く走る運動ではエネルギーの供給は緩やかでも問題がありません。
この場合は無酸素系よりエネルギーの供給が遅いものの豊富にある酸素と身体に沢山蓄えられている脂肪が利用される有酸素系のエネルギーが使われます。
無酸素系のエネルギーは身体に貯蔵できる量が少ないため、負荷の弱い運動では身体に蓄えたエネルギーの消耗を抑えることができる有酸素系が利用されます。
境界線
このグラフのようにエネルギーの供給系はある閾値(境界)から一気に切り替えられます。
無酸素系の回路によって急激に乳酸が生成され始めるライン(色が切り替わる)のことを『無酸素性作業閾値』と呼びます。
実際にはこれほど明確にエネルギーの供給系回路が切り替わることはないようですが、基本的にはこの理解で問題ありません。
最終ラウンドでもない限りボクシングでは無酸素性作業閾値は絶対に超えてはいけません。
これを超えて運動を続けると十数秒と持たずスピード、パワー、集中力が急激に低下し動きが落ちたスキにKOされます。
トレーニングによって黄色のラインを右へ寄せたりすることは可能ですが、今回はその話ではないので割愛します。
自分の無酸素性作業閾値を知る
つまりは自分の超えちゃいけないラインを知る必要があるということです。
無酸素性作業閾値のギリギリを言ったり来たりしながら戦うことで、パワーとスピード、集中力を維持したまま長い時間戦うことができます。
12ラウンド、10ラウンド、8ラウンドと長時間戦うボクシングでは、この見極めが特に重要になります。
このラインを感覚的に知っている、そして死守できることが選手の競技力を考える上で重要な要素の一つになると思います。
まだいけると思っていたら本当に、突然です。
ガクッと落ちます。
そして超えてはいけないラインを超えたことに気がついた時には手遅れなんです。
身体のエネルギーは枯渇し、疲れによって気持ちは弱気に傾きつつある中、相手はチャンスと見て畳みかけてきます。
イケイケで攻めて最後逆転されるパターンだと思います。
相手にラインを超えさせる
自分が超えてはいけないラインなら、相手だって超えちゃいけないラインです。
そのラインを超えさせるって考え方もできます。
この発想があるだけで、ピンチの時でも持ちこたえられます。
むしろ、「もっと打ってこい、自滅しろ、後悔するほど殴ってやる」と強気にになるほどです。
格上が相手で実力差がある試合なんて特に大切になります。
挑発して相手を怒らせて感情的にさせればいいんです。
力んで大振りになるので空振りを誘えますし、力んでいるので体力の消耗が激しくなります。
ボディーを効かされたら打ってこいとジェスチャーしたり、ピンチの時ほど相手を挑発する選手が多いのは実は合理的な戦術なんです。
ピンチの時に縮こまってしまうと逆に相手は伸び伸びと打ってくるので、より苦しい展開になりますからね。
まとめ
自分の無酸素性作業閾値を知ることは競技力に繋がります。
ピンチの時に心を支えてくれるのもこの考え方です。
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