$\mathbb R^n$がベクトル空間であるという事実からベクトル空間での和算と乗算を見ていきましたが、その続きをやっていきます。
高校の数学ではベクトルは矢印でしたが、学問の数学におけるベクトルは高校でやったベクトルを含めてさらにその意味を拡張した概念になっているようです。
数学の凄いところ、というか数学者の凄いところって、曖昧なものを一度具体化して細かく定義することで物事を抽象的にとらえ、一見すると無関係なもの同士が実は同じであることを演繹的に明らかにしてしまうことですよね。
数学で生み出された概念が物理学の別の場所から導き出された概念へと繋がっていく感じも興奮します。物理学者とか数学者ってその興奮に魅入られてしまったんでしょうね。
それではベクトル空間とは何ぞやって厳密な定義を見ていきます。
ベクトル空間
ベクトル加法
ベクトル空間
Wikipedia
数学、特に線型代数学におけるベクトル空間(ベクトルくうかん、英: vector space)、または、線型空間(せんけいくうかん、英: linear space)は、ベクトル(英: vector)と呼ばれる元からなる集まりの成す数学的構造である。
ベクトルには和(wikidata)が定義され、またスカラーと呼ばれる数による積(英語版)(スカラー乗法)を行える。スカラーは実数とすることも多いが、複素数や有理数あるいは一般の体の元によるスカラー乗法を持つベクトル空間もある。
空間 = 集合です。
つまりベクトルと定義された性質を持つ集合のことをベクトル空間と呼びます。
ベクトル空間では加法とスカラー乗法の厳密な方法が定義されており、ベクトル空間の要素にはそれらが適用できることが要請されているってことですね。
補足
数学では太字で$\mathbb{x}$と表記された場合、ベクトルを表す慣習があるみたいです。
$\mathbb{x},x$この二つの違いはベクトルか実数かの違いです。
それでは加法から見ていきます。
ベクトルには結合法則、交換法則が成立します。
結合法則
Weblio
演算の三法則の一つ。 数の加法、乗法は、括弧をどのようにつけても結果にかわりがない
交換法則
Wikipedia
与えられた演算の二つの引数を互いに入れ替えても結果が変わらないこと
$\mathbb{x +(y + z) = (x + y) + z}$
順番を入れ替えても合計の値は変化しません。
$\mathbb{x +(y + z) = (y + x) + z}$
順番を入れ替えても合計の値は変化しません。
$\exists \varnothing \in \mathbb V,\forall \mathbb x \in \mathbb V .\varnothing + \mathbb x = \mathbb x + \varnothing = \mathbb x$
ベクトル空間Vの中に空集合が存在し、それはベクトル空間にあるすべてのxと足し算をしてもxの大きさを変化させてはいけない。
要するにベクトル空間にも実数でいう0が存在しなければならないってことです。
$\forall \mathbb x \in \mathbb V,\exists \mathbb x’ \in \mathbb V,\mathbb x + \mathbb x’ = \mathbb x’ + \mathbb x = \mathbb 0$
ベクトル空間のどのxに対してもx’が存在し、それらの和が常に0になる必要がある。
実数で言えば1に対する-1、2に対する-2が常に存在していなければなりません。
ここまでがベクトル加法です。
スカラー乗法
分配法則
コトバンク
数の加法と乗法とについて成立する法則の一つ。a×(b+c)=a×b+a×c のこと。分配律。
$(a + b)\mathbb x = a\mathbb x ; b\mathbb x$
足してスカラー乗法したものと、スカラー乗法して足したものが同じ。
$a(\mathbb x + \mathbb y) = a\mathbb x + \mathbb y$
ベクトル加法してスカラー乗法したものとスカラー乗法してベクトル加法しても同じ。
$(ab)\mathbb x = a(b\mathbb x)$
実数同士を掛け算した後にベクトルにスカラー乗法したものとベクトルをスカラー乗法してさらにスカラー乗法したものは同じ。
$1\mathbb x = \mathbb x$
ベクトルxを1倍してもベクトルxになる。
以上加法とスカラー乗法の定義でした。
ベクトル空間(集合)にはこれらの定義を満たすことが要請されています。
逆に言えば、これらの性質を満たすものは、それが一見すると別物であっても広義のベクトルと呼びます。
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