カネロの鉄壁ブロッキングの理由を考察

技術

アルバレス選手の鉄壁のブロッキングについえ考えていきます。
ボクシングを競技としてされている方や趣味であってもスパーリングなど実戦までこなしている方ならアルバレス選手のブロッキングの異常さを感じると思います。

単純に腕を上げて頭を守るだけなら腕ごと弾き飛ばされます。
同じ体重なので当たり前なんです。
にもかかわらず、アルバレス選手はコバレフ選手やスミス選手などの自分より明らかに大きな相手のパンチを受け止めてもビクともしませんでした。

僕は常々不思議に思っていました。
少しづつ謎を解き明かそうと努力する内に段々とその仕組みを理解し、固いブロッキングを実践できるようになってきました。

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距離とカウンター

倒立振り子ルーティン

簡単にアルバレス選手の試合中のルーティンの確認です。
以下の記事をお読みでない方はこちらを先にお読みください。

振り子ルーティンについて

メイウェザー選手と同じように倒立振り子ルーティンを行うアルバレス選手ですが、ルーティンの細部が異なります。
前足からバランスを崩して進んでいくメイウェザー選手と違い、アルバレス選手は後ろ足(バックフット)から進んでいきます。
この違いが両選手の得意な動きに微妙な違い、ひいては戦略の全体の違いを生み出していると僕は考えています。
が、大筋の理由は全く同じで安全対策です。

この倒立振り子ルーティンは距離をコントロールするための戦術で海外では頻繫に見られます。
北米(特にアメリカ)や中南米のトップファイターには本当に頻繫にみられる型なので、股関節が元々強いことが要因としてあるとは思いますが、この攻防ルーティンは確立された方法でないかと思っています。
股関節に乗り骨盤の前傾を維持しながら前へ進もうとするとこの歩き方になります。

アルバレス選手はこの技術で常に股関節に力をタメながらプレッシャーをかけます。

左の場面では距離が近く見えますが、骨盤が引かれているので重心が遠くなっています。
この状態なら相手の攻撃に合わせて股関節を素早く伸展させ、迅速に相手の攻撃に対応できます。

この姿勢は上半身の奥行きを残しディフェンスを担保したままプレッシャーをかけることができます。

要約するとアルバレス選手の距離は近い様でいて遠いということです。

「近いようで遠い」これが鉄壁ブロッキングの要因の一つです。

距離感とカウンターによる心理的抑止

以下の動画の1Rがアルバレス選手の距離感と倒立振り子ルーティンが分かりやすいです。

もう少し具体的にブロッキングが固い理由を見ていきます。

アルバレス選手は倒立振り子歩きで距離を詰めます。

この瞬間は左の股関節に乗るので、左股関節の屈曲(伸展のエネルギーの貯蔵)が深くなります。
アルバレス選手に左フックの雰囲気が漂い、相手にプレッシャーがかかります。
相手はこの姿勢を見るたびに警戒して体が一瞬硬直するはず。

同時に骨盤は引かれているので見た目以上にディフェンスのための距離が遠くなっています。
この瞬間を狙われても左の股関節の伸展で素早く上半身を起こしてディフェンスできます。

この姿勢で相手をパンチの射程に捉えきれた場合、左股関節を捻りながら左フックで一気に踏み込んできます。

射程に捉えきれなかった場合、再び右股関節に体重を移動しなおしてディフェンスポジションに戻ります。

この場面は右脚に乗り頭部を遠ざけた防御姿勢です(かなり遠い)。
同時に右股関節が屈曲(骨盤前傾)したパワーポジションであることも注目(右のカウンターが打てる)です。

この動作を繰り返して距離を詰めていきます。

この場面は左股関節を伸ばして右の股関節に乗って頭部を遠ざけています。

距離を取りながらコバレフ選手を観察し攻撃に備える姿勢です。

右の股関節に乗ることのディフェンスにおける利点は、相手のパンチに対して顔面が遠くなるので、相手の全体像が見やすく攻撃を察知しやすいこと、また頭部が遠いので相手はその分強い動作が必要になり、動作を読みやすいことが挙げられます。

このポジションでアルバレス選手は空振りを誘います。

コバレフ選手は空振りして身体が流れます。

同時にアルバレス選手は右の股関節に乗り込んで大殿筋とハムストリングスを伸張し右のカウンターの力をタメています。
SSCにより強力な右股関節伸展が行えます。

このポジションからのアッパーのカウンターはアルバレス選手の十八番です。
完成した戦術なのでこれを「カネロシステム」と呼ぶことにしました。

長くなりましたがアルバレス選手のブロッキングが鉄壁である理由として、一つは距離感が優れていることが挙げれます。
倒立振り子ルーティンによりじりじりと距離を詰めていきますが、雑さや強引さはなく極めて丁寧で、ほとんど距離が崩れることはありません。
股関節の可動域を利用してオフェンスとディフェンスの距離を調節しています。

ディフェンスポジションでは相手のパンチが鼻先をかすめるギリギリの距離に位置取りしているので、相手のパンチが腕のブロックに当たったとしても衝撃力はピークアウトした後なのでアルバレス選手にはほとんど伝わりません。

上とこの画像はディフェンスポジションです。
アルバレス選手は倒立振り子ルーティンで

1.股関節を屈曲させた得意の左フックの距離
2.股関節を伸展させた相手のパンチが届かない距離

を頻繫に切り替えることで相手に距離を掴ません。
ブロックを派手に叩かせているようで「衝撃力が低下している」「カウンターの気配がありパンチの伸びときれが出せない」ということが考えられます。」

空振りに何度もカウンターを合わされると警戒心が煽られます。
その警戒心が相手の無意識に働きかけ、心理的な要因より骨盤の回旋が甘く、また力みによりパンチが伸ばせないという状態を作り出し、本来のパンチ力を奪っていると考えられます。
カウンターを警戒しながらのパンチだからあたっても衝撃が小さいということです。

まとめ

長くなったので整理します。
1.相手のパンチがギリギリ届かない距離の位置取り
2.倒立振り子ルーティンでオフェンスの距離とディフェンスの距離を頻繁に切り替える
3.左フックのプレッシャー、右のカウンターの心理的抑止としての働きが相手の力を奪う

股関節の可動性

話が変わります。

股関節の球関節といって、寛骨のくぼみに大腿骨頭がハマっている構造をしています。

3軸に動く可動性が非常に高い関節です。

アルバレス選手は股関節がぐにゃぐにゃにと柔軟に動かせるほど、股関節周辺の筋が活性化されています。

股関節が活性化されているから相手のパンチを受けても股関節の回転で衝撃を吸収することができます。

膝は1軸なので横からの衝撃に弱く、また支える筋の大きさも全然違うので、大きな衝撃でバランスを崩します。

詳しくはこちらをご参照ください。

骨格立ちと臀部、裏腿の活性化

既述のパンチが打てない状況を作り出して相手の本来の力を奪っています。
さらにアルバレス選手は骨格立ちをします。
「骨格立ち」は僕の造語ですが、股関節に上半身を乗せることで大殿筋とハムストリングスを活性化させ、且つ胸郭に腕をぶら下げることで肩甲骨の可動性を確保、それに伴い脱力した背中の筋と質量のエネルギーを使いやすくなる姿勢のことです。

トップファイターに共通する立ち方だと考えています。

脱力と股関節周りの筋群の活性化により動物的な身体の使い方を実現し、身体能力が向上します。

骨盤の前傾させると、股関節のソケットに大腿骨がハマり身体のバランスが安定します。

話が逸れました。
アルバレス選手は骨格立ちにより、前へ身体を推進する筋力が強い姿勢なので相手のパンチを受けると、股関節の伸張反射により大きな力を発揮して前へ押し返すことができます。
膝関節は力の向きが後ろなので、大腿四頭筋による筋力立ちだとパンチを押し返すことができません。
また膝を伸ばして大腿骨を立てているので右足から受ける地面反力の向きが前です。
相手のパンチを骨格で受け止めることができるので、瞬時に体勢を立て直し反撃することができます。

詳しくは以下の記事を参照ください。

まとめ

固いブロッキング。
大切ですが、とっても難しい。
初めて見た時は異常にも見えたアルバレス選手鉄壁の守りは股関節に乗る(ハマるが分かりやすいかも)ことによる股関節の活性化、倒立振り子ルーティンによる攻防ポジションの切り替えによって実現されていると考察しています。
僕はこれを実践してブロッキングが固く、相手のパンチを受けてもバランスを崩さなくなりました。

脱線かつ、繰り返しですがディフェンスもオフェンスも股関節の活性化が大切です。
ダッキングもスウェイバックもスリッピングも股関節が主導であり、膝はあくまでも補助(もちろん重要)です。

「膝で」と指導している方々は本当に「膝」でのディフェンスができるのでしょうか?
僕は到底膝でディフェンスができるとは思えません。
自分はできないけど、「イメージで」そう言っているだけな気がするんです。

「膝」でと言われたら膝によるディフェンスを実際に見せてもらってください。
おかしな動きをしていることが一目で分かるはずです。
そもそも一軸にしか動かない膝では頭の位置は上下にしか変わりません。

しつこいようですが、アマチュア、プロでボクシング競技に取り組んでいる方は股関節に注力してください。
これが僕がたどり着いたトレーニングの合理的な答えです。

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Die Hard – ダイ・ハード
この記事を書いた人

第41第東洋太平洋(OPBF)ウェルター級王者
元WBC世界同級34位
元WBO-AP同級3位
元角海老宝石ジム所属

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