コンスタンチン・チューのボディーフックと前傾姿勢の文脈

技術運動理論選手分析

チューの高純度の手打ちはかっこいいですよね。風車のような回転力に加えてカミソリの切れ味。一番好きかもしれない。

コンスタンチン・チューのボディーフック

ボディーフックに限りませんが、所謂「ボディーブロー」のように、頭を相手の方へ突っ込ませると、相手と体が密着してしまい、パンチを加速させる為の空間が失われてしまいます。

ボディーフックは前へ突っ込む必要はなく、上のチューのように頭を横へ少しずらすだけです。これで比較的に安全に肝臓を狙えます。
この認識はみなさんの体験とも整合すると思います。

しかし、現状はこれと正反対の、すなわち、ある意味で非合理な技術論が蔓延している節があります。後段では、そうなった論理の考察を述べます。

ちなみに、ベテルビエフは、上の主張とは矛盾するような状況で、すなわち、ほとんど空間がない状態のパンチで、相手をぶっ倒します。それができる理由は、彼の見た目から測れる体の強さ(前鋸筋小胸筋)と、彼の打法が説明してくれると考えています。

横へ押し出されて広がった胸郭と前傾して前へ突き出た頚椎。四角い胸。内旋し手の甲が前を向いた腕。
僕が推理する、前鋸筋小胸筋腸腰筋の強さが導く骨格的な連鎖反応の特徴が強く現れています。

ところで、ブルース・リーの寸頸(=ワンインチパンチ)は、ベテルビエフのそれと同じ原理だと推理しています。ブルース・リーは懸垂を熱心にやっていたようです。恐らくは肩甲骨外転前傾を強調した長濱式と同じやり方だろうと推理しています。

ちなみに、「考えるな、感じろ」は長濱式のフローのことだと感じています。

閑話休題。

ベテルビエフは腕の内旋と肘の伸展=大胸筋と三頭筋の収縮、で前腕を加速させていると考えています。腕相撲や投擲を強調したような動作。
※肘は上腕内旋動作に連動させる。それを意識すると怪我の確率が高まる。

彼のは窮屈な打ち方ではありますが、肩甲骨の外転前傾を強く保てるので、三頭筋や大胸筋の構造から、その張力は大きいと考えられます。

すなわち、彼の構えは常にパンチのタメを作った状態である、ということです。彼がほとんど反動動作を使わず強打を繰り出せる理由だと考えます。

構造的にエネルギーのタメがあるから、SSC(=パンチの反動動作)を最小限に抑えられる、故に空間がなくてもクイックかつ強烈なパンチが打てる。

彼の身体的な特徴と技術的な特徴の論理的な意味の方向性が一致している(結果的に)からだと考えています。(スキルセット)

戦略と戦術、スキルセットとスキル
スキルセット ここでの『スキルセット』とは『スキル』と区別して使います。その人が持つ全てのスキルを組み合わせたものを『スキルセット』とここでは呼びます。パワーやスピード、持久力や打たれ強さ、性格なんかもその人の持つ広義の『スキル』です。 今...

彼程の寸頸は、以上のような骨格と技術的な整合性が実現する、彼だけの離れ業だと考えます。

仮に彼の寸頸を真似するのなら、要求されるのは彼と同じ前提。小前提は、構えとパンチのスイング動作の論理的な意味の一致。大前提は前鋸筋小胸筋の大きさ。

スポーツの上手さは反動動作の上手さ【SSC】
反動動作は合理的な動作です。「やる、やらない」ではありません。やるんです。一択です。 考えなければならないのは、どうやるのか、どう鍛えるのかだけ。 デコピン 反動動作が分かりやすいのがデコピン。 デコピンは抽象化するとこんな構造になっていま...

閑話休題。
話をボディーフックへ戻します。

前へ突っ込むとボディーフックを含めてパンチはかなり打ちづらくなります。
前傾姿勢で床から強い反力をもらうのには高度な感性に裏付けられた技術が要ります。ナルト走りで速く走れないように。

パンチは打ちにくいことは間違いないと推理しますが、「ファイターは前傾姿勢」というボクシング村の認識は間違えてはいないと思います。特にオールドスクールなボクサー、例えばフリオ・セサール・チャベスなどを見るとそう感じます。

しかし、一方で、論理的に考えるなら、攻撃力≠前傾姿勢
は妥当な推理だと感じます。

これらを踏まえた上でなら、前傾姿勢は攻撃の為ではなく、ディフェンスの為である、と解釈できると思います。

すなわち、ファイターが前傾姿勢を好むのは、強いパンチを打つためではなく、パンチを芯で食わないためです。

結論。
パンチャー≠前傾姿勢
前傾姿勢≒ディフェンス

他にも一つ、前傾姿勢=パンチャーの認識が広がった理由が推理されます。

ボクシング(=拳闘)が輸入された当時の、何の情報も持たない日本人は「相撲」の価値観を土台に技術を構築しただろう、と推理されるからです。

当時は、格闘技と言えば相撲です。

YouTubeはおろか、写真ですら手に入らない時代です。拳闘を発展させた先人達の取りうる手段としてなら、当時としては妥当だったはずです。

次に考えられるのは、腸腰筋が強い外国人のように、棒立ちで力を出せる能力を持つ人が少ないこと。
力を出す為の方法として「体重で押す」の弱者の認識が主流になったと、を考えられます。

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下の動画のようにもぐり込んでいくのはディフェンスの為。

以上をまとめると。

パンチが打ちやすい姿勢は前傾姿勢ではない。前傾姿勢はディフェンス。

投擲同様に、棒立ちからの動作の開始、が腕の加速という意味でなら、骨格や力学的な構造から演繹的に導かれる妥当な推理だろうと感じます。

しかし、殊にオールドスクールなボクサーに関してなら、前傾姿勢は頻繁に見られ、かつ彼らは大きな戦果を上げている事実があります。

前傾姿勢は攻撃力とは別の文脈から発生していた技術であろう、との推理が妥当でしょう。

すなわち、前傾姿勢はディフェンスの為です。

そして、これはみなさんの体験や観察的統計とも一致するはずです。

補足。

ディフェンスとは別の視点から、頭を動かす理由を考察すると、それはボディーフック等の軌道を創る為です。

突っ立った姿勢だと、肋骨の中にある肝臓は相手の腕が邪魔をして叩けません。アッパーカットも相手の腕に邪魔をされます。

左ボディーフックの場合は腕を迂回させる必要があります。
この場合は相手の肝臓を覗くように頭を横へズラします。すると、頚椎の側屈に連動して胸椎の側屈回旋(大腰筋の収縮)が起こり、必然的にフックの軌道が作られます。

注意点ですが、肝臓は肋骨の中です。横っ腹を叩くボクサーは多いですが、肋骨を殴ってください。それは肋骨の中にあります。肋骨を揺らしてそでそれを刺激します。肝臓は背中からも狙えます。

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この記事を書いた人

第41第東洋太平洋(OPBF)ウェルター級王者
元WBC世界同級34位
元WBO-AP同級3位
元角海老宝石ジム所属

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