フックを強く打つ

技術
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僕はずっとストレートにこだわっていたからか、フックを強く打つのが苦手だったんす。
でも、フックが当たらないとストレートは当たりません。

色んな選手を参考にして今は強く打つことができるようになってきました。
今回はフックを強く打てる理由と参考になる選手の紹介をしていきます。

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何故フックが強く打てない

サイキックでもない限り人間は厳密なルールによって身体を動かします。
以下の動作原理を理解することはボクシングにおいては大きなアドバンテージとなります。

SSC

僕がフックを苦手としていた理由は以下のSSCについて理解していなかったからです。
アスリートのパフォーマンスはいわゆる反動動作、『SSC』が切っても切り離せません。

SSCの具体的な方法と原理については以下のリンクをご覧ください。

強いフックを打とうとすると腕を引く動作が必要になります。
体幹を腕に先行させて回転させてもSSCにはなりますが、腕を引いた方が腕の運動の分、肩の腱に蓄えられるエネルギーが大きくなります。

肩の関節を外旋(腕を広げるような動き)させると、腕の運動エネルギーが鎖骨付近に付着している腱に弾性エネルギーとして蓄えられます。

さらに肩の筋の伸張反射も起こされるので、伸張性収縮により強い力で腕が内旋(内側に肩がが回る)します。

SSCには上記のような強い筋と腱の収縮が起こせるという利点があるんです。
しかし、ボクシングを始めた頃の僕はTwitterのつぶやきのように、「フックはダサい」と考えていました。
腕を引く動作は「悪」で、相手に読まれて隙に繋がると一面的な見方をしていたんです。

少しだけ伸張反射についての復習です。

伸張反射

筋は速い速度で伸張されればされるほど、強い力で縮みます。

SSCは筋肉の強い収縮によって大きな筋力を発揮することができるテクニックです。

フットワークの切り返しの動作や跳躍の前の屈む動作などアスリートの爆発的な動作とは切っても切り離せません。

弾性エネルギー

SSCにより腱に蓄えられるエネルギーは弾性エネルギーと呼ばれ以下の式で表されます。

U = kx2/2

Uは弾性エネルギーでkはバネ係数(バネの固さ)xがバネの自然長からどれだけ伸ばされたかです。

バネ係数(腱の固さ)が同じだと仮定するなら、「どれだけ伸ばされたか」に腱に蓄えられる弾性エネルギーが比例します。

伸ばせば伸ばすだけ、腱は勢いよく縮もうとするということです。

慣性モーメント

以下の図のコマ(誰がなんと言おうとコマです)を見て下さい。
どっちのコマの方が回転させやすいか直感的に理解できますか?

コマの回転のしやすさ

そうです。
右側の半径の小さいコマです。
これは何故かと言うと回転のしやすさは慣性モーメントと呼ばれるルールに従って記述されるからです。

慣性モーメント:
一般に、剛体の慣性モーメントは、剛体の質量に比例し、質量が軸から遠くに分布しているほど大きくなる。

Wikipedia

剛体は硬い物質のことです。
柔らかいのは流体とか言いますよね。
要するに軸を中心に回転する剛体が重ければ重いほど、質量が軸から遠ければ遠いほど、慣性モーメント(回転のしにくさ)は大きくなります。
コマであればコマの半径(質量の分布)が大きければ大きいほど回転させにくくなるんです。

角運動量

ある軸を支点に回転する物体の運動量(運動の激しさ)のことを角運動量と言います。
ボクシングなら、回転運動するグローブにぶつかった時の衝撃の強さのことです。

激しい運動と言うとまず思いつくのは速い運動だと思います。
速ければ速いほど、運動は激しいと言えます。

次に重い物体。
同じ速さでも重ければ重い程ぶつかった時の衝撃は大きいので、運動が激しいと言えます。

運動の激しさである運動量は以下の式で記述できます。

P = mv

Pは運動量で、mは質量vは速度です。
つまり、運動量(衝撃)は運動する物体が速ければ速いほど、そして重ければ重いほど大きくなるんです。

上記の式は「線型運動量」と呼ばれる直線的に動く物体における運動量を表す式です。
ボクシングのパンチのようなぐるぐると回りながら運動する、回転運動の運動量(角運動量)を求める場合は上記の式に軸からの距離が必要になります。

L = rpsinθ

Lは角運動量(回転の激しさ)rは軸から質点(重心みたいなもの)までの距離、pは上記の運動量、sinθは簡単に言うと力の向きのことです。
回転させたい物体に加える力の向きですが、今回は無視でOK。

この式から分かること(角度は一旦無視)は角運動量は重くて、軸から遠くて、速く回転していればしているほど大きくなるということです。

回転させるにはエネルギーが必要です。
物体に角運動量を持たせるのに必要なエネルギーは以下の式で記述されます。

K = Iω 2/2

Kは運動エネルギー、Iは上記の慣性モーメントのことでωは角速度(回転の速度)です。

これでは理解しづらいので、「どうやれば角速度を上げられるか」について考える為に、この式をωについての式に移項して変形します。

ω2 = 2K/I

分かりやすくなりました。
左側の角速度を大きくするためには右側のKとIをいじくればいいんです。

角速度をωを最大化させるには、運動エネルギーがこれ以上増やせないと仮定するなら、単純に分母のI(慣性モーメント)を小さくしていけばいいということです。

既述の通り、慣性モーメントは回転軸の中心に質量を集めることで小さくすることができます。
上記のコマで言えばコマの半径を小さくすることです。

力の向き

パンチの衝撃を大きくするなら、衝突までは筋は弛緩していた方がいいし衝突の瞬間には手首や拳、体幹の関節を一瞬固める必要があります。
この弛緩と収縮についてはとても重要なことではありますが、目で見てわかることは少ないので分析では割愛します。

力を伝えるには力の向き、つまり手首の角度や肘の角度も重要です。
相手の軸に垂直に当てれば、関節の回転に力が吸収されないので、パンチの衝撃を効率よく伝えられます。

必要な知識が出揃ったところで、左フックが強烈な選手を分析していきます。

フックと言えばで思い浮かぶのはドネア選手とライアン・ガルシア選手、ゴロフキン選手です。

ノニト・ドネア

KOフック

上の動画の左フックを打つ前、微妙に体幹をこの画像で右側(フックの逆方向)に小さく回旋し、左腕を体幹に引き寄せながら右向きの角運動量を持たせています。
そして、その直後に左側(フックを打ち込む方向)へ体幹を回旋させます。

動画のスローを見ればお分かりになると思います。
一瞬体幹を右に小さく回旋した後、大きく左に回旋させます。
これは左腕を後ろへ引くための動作です。

これにより肩の腱が腕の回転方向と体幹の回転方向、つまり反対方向に向かって大きく伸張されます。
既述のように弾性エネルギーはバネの自然長、つまり腱がどれだけ伸張されたかによってそのエネルギーの大きさが変化します。

さらに急速な筋の伸張により伸張反射が起こり、強い筋の収縮が起こります。

また、この時拳は体幹に近い位置へ引き寄せられながら動いています。
これは素早く拳を後ろへ引き、肩の腱を伸張するためのテクニックです。
質量が回転の軸となる体幹に近づくので慣性モーメントが小さくなり、腕が比較的速い角速度を持って回転します。

SSCの側面で見て、とても効率的な動きだと考えます。
伸張される腱の長さが増加し大きな弾性エネルギーが腱に蓄えられます。

左腕を回転させながら肘が上がります。
肘を上げることで回転する軸から腕の重心(質量)が遠ざかります。
おもりをつけたバットを振り回す時におもりの位置が動いて遠ざかるとバットの勢いが増すような感じです。

パンチを打つ前は高速で腕を背後に回すために拳を体幹(軸)へ近づけ、打ち抜く瞬間には肘を上げて、拳の運動量を増加させています。
一度腕の重心を近づけて、今度は遠ざける。
逆のことをパンチの前と最中でやっています。

さらに、体幹のエネルギーを腕へ移した後は体幹を停止させて「ブレーキ効果」を起こしています。

正確な角度は分かりませんが、恐らく拳が頭部に衝突した時の肘は直角に近い角度であると思います。

ライアン・ガルシア

ドネア選手と同様にフックを打つ前に体幹を一度フックを打つ方向と反対に回旋し強めに腕を引きます。

ドネア選手と同じように肘を上げています。

上記のリンクを見てもらえれば分かると思いますが、ドネア選手と同じように腕が大きな速度を持ったら体幹を停止させて腕を加速させています。

衝突時の肘の角度も直角に近いように見えました。

ゲンナディ・ゴロフキン

ゴロフキン選手もフック使いですが、腕を強く引いてSSCによって強い力を発揮させています。

上の動画のフックは全て腕を引いて打っています。左フックだけでなく右フックもです。

ゴロフキン選手がこれだけ大きく腕を引けるのは強いジャブがあるからです。
これで相手のバランスを崩して稼いだ時間で腕を引いています。

最初に述べたように、大切なのは腕を引かないことではありません。
どうやって、SSCを起こす時間を稼ぐかです。

まとめ

腕を引いて打つのは強いパンチを打つためには合理的な方法で、これをどうやって組み込んでいくかが重要。

ストレートが得意でこだわりがあったとしてもストレートを強化する為にフックを覚えることは欠かせない。

ジャブについての解説はこの記事でしています。

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僕みたいに尋常ならざる数学や力学に関する興味がないと読み進めることはできません。
でもこれより身の回りの現象を合理的に説明する方法はありません。

Die Hard – ダイ・ハード
この記事を書いた人

第41第東洋太平洋(OPBF)ウェルター級王者
元WBC世界同級34位
元WBO-AP同級3位
元角海老宝石ジム所属

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